曲は指揮者の解釈によってがらりと変わるがこの幻想はゲルギエフらしい幻想だと思う。決して狂気に満ちた演奏ではないが歌うところはっしっかり歌い鳴らすところはしっかり鳴らす。特に5楽章は怪しげな雰囲気やゾクゾク感が伝わってくる。そこには少し明るさも感じて幻想的な世界が描かれている。
幻想としては特筆点なしおすすめ度
★★★☆☆
さすが、ウィーン・フィル、アンサンブルもたしかに良い。よくまとまった演奏に文句はでないであろう。
しかし、幻想交響曲としてはどうだろう?
ティンパニの強打や怪しい鐘の音色に対する工夫もしくはこだわりといった、聴き手が幻想交響曲に期待する猟奇的な部分が感じられない。
あえて、幻想を録音した意図がよくわからない1枚であるが、ウィーン・フィルのファンやゲルギエフのファン、また、曲そのものの持ち味よりもアンサンブルの乱れなどの演奏の技術にこだわる人にはお勧めなのかも。
ミンコフスキのような華やかさは感じられなかったがもちろん、ミュンシュのような狂気もない。
星5つでもいいんですが...。おすすめ度
★★★★☆
立派。本当に立派な演奏。この曲の定番としてもよい位、素晴らしい演奏だと思います。ただ面白い演奏かと言われると、チョッと期待はずれだった。ゲルギエフという指揮者に過剰な期待をしすぎているのでしょうか?少なくとも私は、この曲からもっと「狂気」のようなものを感じたいのです。その点、この演奏はあまりにシッカリとし過ぎているように感じました。これだけ同曲には多くのCDが出ている中、ゲルギエフがCDを出すのだから、もう少し何か他と違う演奏をしてくれるのではと期待したのですが...。もっとも、もしこの演奏をライブで聴いていたら、きっと物凄く感動していたと思います。
概要
ゲルギエフのいままでのイメージからすると、意外なほど柔らかく上品な《幻想》。全体にウィーン・フィルのカラーが強く出た演奏で、羽目を外すというよりは端正な印象を残す。かといって淡白というわけではなく、細かいディテールに濃厚な表情を持っているところはさすがだ。 第1楽章はその傾向が顕著で、ウィーン・フィルらしい気品と、近年ゲルギエフに目立つようになったピアニシモが印象的。第2楽章のワルツの柔らかくゆったりとした優雅さは、大都会パリよりは幻想の都サンクトペテルブルクを彷彿(ほうふつ)とさせる。第3楽章の静けさにも、ゲルギエフらしい粘りと密度の濃さがある。のっしのっしとゆっくり行進する第4楽章は独特の恐怖感がにじむ。第5楽章は逆に早めのテンポで始まり、鐘の音はかなり遠い。最後の最後になってパワーは爆発するが、聴き手が期待するグロテスクさや怪異な力はここにはなく、意外なくらいに音楽的に純化された演奏である。
むしろ聴きものは叙情的情景《クレオパトラの死》の方だろう。弦の響きもこちらの方がつややかに感じるし、ベルリオーズを得意とするボロディナが絶好調で、妖艶でボリュームたっぷりの美声を聴かせてくれる。緩急自在にウィーン・フィルをあやつるゲルギエフの棒も冴えており、劇的な起伏に富む迫真の22分間は、特大のグランドオペラに匹敵する、ずしりとした満腹感を与えてくれる。ろうそくの炎が一瞬燃え上がって、ふっとかき消すように命途絶えるような霊感に満ちた最期は、非常に感銘深い。(林田直樹)