治安はめちゃくちゃ、明日生きていられるかどうかもわからない程苦しい生活の中で生きる主人公が誰かに宛てた手紙という形で書かれています。第三者の視点から語るのと違い、とても感情移入しやすく、途中で涙が出そうになったシーンもありました。その国での生活を分析的ではなく、主人公のアンナが感じたままが描かれています。文体も非常に読みやすいです。稚拙ではないのに、わかりやすく、比喩などの表現技法もほんとにすごいです。全てが絶望的な生活で出会った人々とのドラマも素晴らしいです。ラストのその後のアンナ達がどうなるかはまだわかりません。行動を起こす前で手紙が終わってしまっているので。ラストあたりではウォーバンハウスが一気に絶望的になっていくのに、何故かその後はきっと何かがうまくいくのかもしれない…という希望を感じました。
別の世界からの便りおすすめ度
★★★★★
次がない。これでおしまい。
「最後のもの」というのは、「最後のものたちの国」とは、つまりはそういうことだと思う。
さっくりと言ってしまえば、絶望である。
主人公アンナ・ブルームが置かれている立場はまさにそれで、四面楚歌、360度矢面という情景描写がぴったり来るような地獄の中にいる。
それでも、訳者が言うように、この作品の根幹に流れているのは「希望」である。
社会の中にあるさまざまな価値観を、削ってけずって、極限までそぎ落としてシンプルにしたからこそ見える人間像が、ここには描き出されている。
物語はえんえんと続く静謐な悪夢のようだが、最後に一気に収束する。
最後の数行がとにかく秀逸。
この本が出版されたということは、つまりは一通目の手紙は届いたということなのだ。
アンナ・ブルームの約束が果たされることを、願ってやまない。
…おすすめ度
★★★★★
オースターのニュヨーク三部作あたりと続けて読むとなんじゃこりゃ?と思うでしょう。SF? と。
解説に書いてあるが、一見SFっぽいんだけれど、モチーフは完璧に現代らしいんです。未来の話じゃない、いまどこかの国で確実に起こりえること、としてオースターは書いてある。
崩壊(しかかっている)国に迷い込んだひとりの女性からの手紙。ですます調の文体と、濃い心理描写と突き詰められた設定。それは現代の寓話にどうしても見えてしまうけれど、だからこそ、「現実」として突き刺さってくる。
生きるのに油断できない生活。意味がない、身を削ってまで、しかもそれが自己保身にしか繋がらない倒錯的な慈善活動。ひとつひとつ現代に還元していくのもおもしろい読み方かもしれないけれど、そのまま読んでみたらどうだろう?
ストーリーテラーとしての才能が怖いくらいに魅せられる傑作。
何、これ?おすすめ度
★★★★☆
ポールオースターの作品だと思って読み始めると、何、これ? と思われることでしょう。SF的にある世界、それも「終末論」的な都市を設定して物語が形作られています。オースターの作品にあるアメリカ的なものは何もなくて、後半出て来る図書館はナチに壊された建物のようで欧州的ですらあります。でも私、この作品嫌いじゃないんですよね。オースターの作品は理屈をこねて見ても分からないものばかりで、個人的に「読後感」をその評価の出発点にしてるんですけど、その読後感的には読んでいる時の違和感からすると驚くほど悪くないのです。真面目な作家さんで、本当に色々なタイプの作品に挑戦していて、これもその中の極端な例の一つなんでしょうけど、一体、これ何なんでしょう? だから、読み始めてちょっとひっかかったとしても、止めないで読み進んで下さい。最終的にはそんなに期待を裏切らない作品ですよ。
素晴らしい作品
おすすめ度 ★★★★★
オースターの作品の中ではいちばん好きです。なぜならアンナがかわいいから。複雑な生命力に満ちているから。物語世界は明るくはないですが、読後感は奇妙に明るいです。破滅に向かっていくこの物語の中の世界は、明白に、現実の映し絵ですが、そんな中で、生き抜くってどういうことなのかを、アンナからの手紙が語ってくれます。