死を想えおすすめ度
★★★★☆
日本の学者やルポライターにいかにもありがちな、社会研究に身を借りた「自分語り」とは
明白に一線を画した、死への過程を辿る記録。
数年前、とある講演でのこと、語り手は非常に名の知れたホスピスのドクター、前提知識に
乏しい聴衆を前に、一般論として、との前置きの下で、彼は死へと向かう人々の感情の軌跡を
説いた。それはまさにこの本が開示した、「否認と孤立」からやがて「受容」と至る一連の
プロセスであった。
そして、彼は同時に付け加えた。人的資源においてもシステムにおいても、終末期医療に
あまりに乏しい日本においては、しばしば「受容」以前の「抑鬱」を以って患者は死へと
引き渡される、と。
おそらくは、そうした社会制度の構築の礎としても有効な、今なおアクチュアリティーを
持つ一冊。
もちろん、「死を想え memento mori」、あなたの死、身の回りの大切な人の死、生を享けた
すべてのものの宿命を知るに当たっても有効な一冊。
時代を超えておすすめ度
★★★★☆
まず第一に、このような繊細なインタビューを、文字だけで追体験するのは難しいと感じました。
著者の業績の偉大さは今さら言うまでもありませんが、終末患者に対するインタビューで著者が感じた心の叫びは、言葉だけではなかったはずで、表情だとか口調だとかにも表れていたはずです。
その証拠に、各章に取り上げられるインタビューを読んだだけで、あの有名な「五段階」を見分けることは、なかなかできるものではありません。
この多数のインタビューをもって著者は「終末患者の五段階」を見出し、終末患者に本当にさしのべられるべき手を見出し、それを実行してきた。躊躇よりも愛情、興味、好奇心が優先する人柄が偲ばれます。
かの「ブラックジャックによろしく」でガン患者を取り上げている章があります。斉藤医師は「五段階」に疑問を感じましたが、患者が辿ったのはやはり「五段階」でした。
時代が変わっても、人間である以上、終末は変わらないのでしょう。
しかしま、神の存在云々という点では、日本人とは感覚が違います。
訳がこなれているので、本の厚みを感じる間もなく読めます。おススメです。おすすめ度
★★★★★
人は徹頭徹尾、関係において生きて死ぬことを再認識させられる。それは、臨死患者本人だけでなく、その家族、医師、牧師、看護師、作業療法士、ソーシャルワーカー等、周りの人たち全てが、死をどうとらえるかに係っている。
医師や看護師が死に対して自己防衛的な心理を抱いていると、患者に対してそういった態度や行動を示すことがある。牧師は患者からの本質的な問いかけを避けて、職業上、聖書の一節の読み上げに終始することがある。患者本人が死を受容した段階にいるにも関わらず、家族が受け入れないことにより齟齬が生じることがある等々。
皆が話題にすることを避けがちな中、一番、患者本人が胸の内を聞いて欲しがっている。同様に家族が、医師が、牧師が、看護師がと続く。
そのことに気づいた著者は、試行錯誤しながらも、確固たるスタンスを当初から持っていたように感じた。
宗教の違いおすすめ度
★★★☆☆
末期医療のバイブル的存在と言うことだが、唯一絶対の神を信仰する欧米人と森羅万象に神が宿ると考える日本人では、死に対する反応はかなり異なるのではないかと言う気がする。いろいろ参考にはなるので読んで損はないとは思うが、日本の末期医療においてこの本を絶対視するのは問題があるように感じた。
“死”について考える機会
おすすめ度 ★★★★☆
生きて生活する我々の世界にとって、“死”とは忌むべきもの、絶対に直視したくないもの、全ての“消滅”に過ぎないもの、という固定観念は今も根強く健在します。
ロス医師は1965(S40)から末期患者へのインタビュー・セミナーをされたということですが、現在においても“死”は人目につかないところへ避けられ、目を向けられず、“縁起が悪いだけのもの”とされています。
しかもそれが、心身を治療すべき医療現場においてでさえ、“死=失敗作品”という歴然とした烙印を押されているように思えてなりません。
1965年頃という随分前の時代であること、そこが日本と違った価値観を持つアメリカであること、抜粋されたインタビューがかなり“理性的”な人達に絞られていること、彼等は全員、幼い頃から“キリスト教(会)教育”を施されていること、それに伴い病院には当たり前に“牧師”が居るということ等‥現代の日本に住み、特に信仰や神を持たず、また別に理性的でもないフツーの私たちが、果たしてこれらのインタビューをどの様に受け入れるのか‥きっと、読む人の感性によって随分左右されるのでしょうね。
私は、この本を読むのに随分エネルギーを要しました。何か胃の辺りが調子悪くなって‥無意識に、自分も患者になって行く様な気分になってしまったからかも知れません。
でも生きている我々にとって、“死”から逃避することは不可能です。ですから必要以上に避けようとしたり、逆に恐れ過ぎる必要はないのではないか?‥と感じさせられました。
柔軟な思考を持つ若い方々、逆に身内にご不幸が訪れ始めた世代の方たちにも、是非一読して頂きたいと思える一冊です。