笑わせ、泣かせる、良質のエンターテインメントおすすめ度
★★★★★
主人公の仕事は「クビ切り請負人」。
よく考えたら「明るく楽しく描く」ことが、えらく難しい設定である。
漫然と書いたら陰惨になってしまうに決まっている仕事なのだから。
前作もそうだったが、第1話に工夫がある。
「こいつはクビになって当然だよなぁ」と誰しも思うような相手を持ってきている。
だから主人公がそやつを「追い込む」ときに、我々読者は爽快感すら感じてしまうのだ。
実に達者である。
だが達者なだけではない。
本書第1話「二億の女」では、その「どうしようもない人物」がかつて女性部下をかばってくれた
思い出が語られる。人物の造形が深まり、そう回想する女性部下の人柄がさらに浮き彫りになる。
さすがは山本周五郎賞作家、現代の世知辛いサラリーマン社会の「人情」を描いて余すところがない。
笑って、泣いて、とても楽しめる小説である。
ロクデナシ、素晴らしい!おすすめ度
★★★★★
前作に続きさらに充実度アップ。
短編連作のため、ゲストキャラの魅力によって、大きく内容が変化するが面白さは常にハイレベルを維持。
出てくる人物それぞれの背景から入って、本人の目から見た現実と、人生の悲喜こもごもが丁寧に描かれており「クビきり」=リストラ現場のイヤラシサがなくさわやかな希望の持てる作品に仕上がっている。章単位で目線が切り替わるテンポの良さは非常に巧みだ。
これだけ夢や希望や愛に関わる内容でありながら、全くクサさを感じさせないところに作者のロクデナシなところが出ていると思う。表題作「借金取りの王子」は油断してしまい、ちょっと目頭が熱くなってしまった。普段の私はこんなことで感動させられるはずがないのに。筆者の巧さか、それとも・・・。
前作よりも更におすすめ。
垣根版サザエさんかなぁ。。
おすすめ度 ★★★★☆
この人の作品好きです。かなりくどいSEX描写はさておき、通勤電車でも十分に読める内容で、読後感がすっきりしてます。但し、本作と前作は、彼の作品の中では、若干異色な内容かもしれません。けれど、これがなかなか味わい深い小話集となっておりまして、往年の星新一のショートショートの趣があるかもしれない。しかしそれ以上に日曜日の夕方に放映されている長寿番組に近い雰囲気で、笑えることもなく、泣けることもなく、淡々と文字を追いかけているとなんとなく、すっきりした読後感に至るという、実に良い作品だと思います。