この作品を最初に見つけたのは、学校の図書室でした!その後ビデオとDVDも入手。グスタフ氏が、ホテルのロビーで新聞片手にそわそわと。すると、その目線は御夫人でなく、タジューくん。彼はセリフがなくとも、神秘美のオーラを放っている。監督のルキノ氏もオーディションの末ビョルンに会ったとたん、即決したという。特に、好きな場面は夜のテラスに音楽隊が来る。タジューくんは、カチッとした服で立ち姿もさまになっている。そして、教会で祈りを捧げる場面。その彼の存在にすっかり夢中なグスタフ氏。しかし後半、疫病が流行り街中に消毒液が撒かれる。タジュー一家との別れに苦悩する。そして、タジューくん一家が帰る日。海辺の彼を見ながら力尽きるグスタフ氏。タジュー役のビョルン・アンドルセンが出演し世にでた映画はこれ一本だ。当時まだ十代の彼は、別の道を選択した。最近、数十年振りのビョルン氏の姿を写真でみた。正直言って、タジューの面影はなく、普通のおじさま化していた。まさに、天は二物を与えず。美少年は、スクリーンの中でしかお目にかかれないのだ。
悲しくて深いおすすめ度
★★★★☆
老いて醜くなること、死んでいくことへの恐怖は男女問わないんだなあとしみじみ。
美意識が強い人ほどその傾向は強いのかも。
恋をするということはそういう恐怖を忘れさせてくれるものなのでしょうか。
私は美少年より主役の作曲家の顔の方が好きです。恋に狂った顔、化粧をした顔の哀愁、素敵だなあと思いました。白塗りの顔はマイケルジャクソンみたいでしたけど。
美しい死に方、破滅の仕方には才能がいるんだなあと思いました。
冷徹なる美意識おすすめ度
★★★★★
美しく、かつ冷徹な作品だと思います。アッシェンバッハ(ボガード)が美少年タージオの美しさの虜になっていくプロセスは、裏を返せば彼が自分の老醜に気付いていくプロセスでもあります。その顔に黒々と眉墨が流れるシーンがありますが、あのシーンの生々しさは、もはや残酷といっていいほどです。ヴィスコンティの作品は貴族的、耽美的、という印象で受けとめられているようですが、この人の作品を貫くのは、その圧倒的美意識に加え、外科医のような冷静な観察眼だと思います。最期の場面で、死にゆくアッシェンバッハと、ギリシア神話の若き神のように立つタージオを対比させて描くヴィスコンティの目には、滅び行くアッシェンバッハの姿の陰に、時間の差こそあれ、やはり滅び行くタージオの姿がはっきりと見えているようです。この描き方は貴族社会の表の華やかさと、その裏にある空しさ、の両方を知りぬいていたヴィスコンティならではの技でしょう。
美への陶酔感と覚醒感の絶妙なバランスが、この映画を真の芸術作品たらしめている所以だと感じます。
死と老いおすすめ度
★★★★☆
オッフェンバッハが美少年タージオを恋い慕い―という耽美的な映画。タージオの美しさが印象深い。けれどそこから描かれるのはオッフェンバッハの惨めでこっけいな姿。自身の醜さと老いそして迫り来る死がタージオを慕わせていたことがやるせなく、みっともなく、そして悲しい。美しいベニスの風景のなか、描かれるそんなオッフェンバッハのラストシーンはまさしくその滑稽さの極み。
原作者のトーマスマンは、サナトリウムを書いた「魔の山」にも見られるように「死」や「老い」を追っているようにみえるけれども、そこに「地獄に堕ちた勇者ども」のヴィスコンティのエロティシズム、耽美的」要素が加わり、より一層印象深い作品にしているように感じます。
冒頭のベニスの風景の美しさ、そしてラストシーンのあまりにこっけいで醜いオッフェンバッハ。生きることがやるせなくなってくる、そんな作品です。
忘れられない一本おすすめ度
★★★★★
この映画で描かれる愛は、まちがいなく本物の愛の、一つの形だとおもいます。
主人公の真摯な想いが胸に迫ります。
生の美しさは老、病、死と対置させることでいっそう際立つんだなと感じました。
概要
マーラーの官能的な楽曲に誘われるようにして始まる導入部からして、魔力のような美しさを持った映画である。20世紀を代表する映画監督ルキノ・ビスコンティは「この作品は私の生涯の夢だった」と語っており、終生の愛読書であるトーマス・マンの原作に改編を加え、主人公の設定を文学者からマーラーを模した作曲家として映画化した。 舞台となっているのは現在はベネチア映画祭が開かれるベニス・リド島。静養のため島を訪れた老作曲家(ダーク・ボガード)は、ふと見かけた美しい少年タジオに心うばわれる。監督がヨーロッパ中を探して見つけた15歳の少年ビョルン・アンドルセンは、美を追究する者をとりこにするのもうなずけるほど妖しく美しい。彼の存在なくして映画は成立しなかっただろう。死に至るまで言葉ひとつ交わすことなく少年を追い続ける作曲家。決して交じり合うことなく向けられる視線の痛々しさ。絶対的な美の前に無力となる人間のもろさが見事に描かれている。(井上新八)