仕事で頭が疲れ、現実から逃避する為の楽しみとして買いましたが、かえって「日本文学史」と「大正世相史」を学んだような気分です(これは誉め言葉です。)大変充実した作品集で、最近怖い怪奇小説がない、と嘆いていた私は感動しました。特に、何の怪奇も具体的に出てこない(が、実際は恐ろしい因縁がある)佐藤春夫の「化物屋敷」が一番怖かった。 実は二巻目も買いたいのですが、最初のショックが大きかったので、もっとお気楽な気分になった時買います。翻訳物も楽しいですが、感性を共有できる日本人の書く小説は、読んで損はありません。
怪奇小説を通して近代文学に親しむおすすめ度
★★★★☆
傑作集の1巻目は明治から大正にかけて発表された作品がラインナップ。名前を聞いたことはあるけれど、未読の作家の小説を読む良い機会となった。教科書で読んだ「舞姫」の文体で挫折・放棄してしまった森鴎外が意外に楽しめたのがささやかな収穫。谷崎潤一郎の妖艶な短篇は今でも充分怪しくて魅惑的だ。夢野久作の独創的な文体には面食らった。読み仮名を多用してひらがなを現代表記に差替えたのは正解だと思う。間口を広げ敷居を下げる効果がかなりある。アンソロジーは全く知らなかった作家の話が読めることも楽しみのひとつだ。怪奇というフィルターを通すことで川端康成のように、ある程度イメージが定着した作家の知られざる一面を垣間見ることができた気もする。
日本ホラー小説を俯瞰する好企画おすすめ度
★★★★☆
明治後半から平成までの日本の怪奇・幻想小説を3巻に収めたアンソロジー。第1巻は明治35年から大正時代を経て昭和10年までの17作品を収録。現在文豪と呼ばれている日本を代表する作家の作品が少なからず収録されているのが興味深い。また、こういったアンソロジーは、編者がどういう作品を選ぶかも重要な要素。明治の文豪の双璧である漱石と鴎外で同じタイトルを並べて読ませるあたりは、二人の精神背景の違いがわかり趣向が凝らされていると感じる。芥川の「妙な話」も練られている。芥川には、「妖婆」「魔術」といった怪奇な趣向の小説が少なからずあるが、この作品を選ぶのは意外性があってよい。大佛次郎の「銀簪」や岡本綺堂の「木曽の旅人」など初めてふれる作品もあり楽しめるアンソロジーであった。
収録作品一覧おすすめ度
★★★★☆
収録作品一覧です。
小泉八雲 「茶碗の中」
泉鏡花 「海異記」
夏目漱石 「蛇」
森 鴎外 「蛇」
村山槐多 「悪魔の舌」
谷崎潤一郎 「人面疽」
芥川龍之介 「妙な話」
内田百間 「儘頭子」
室生犀星 「後の日の童子」
大泉黒石 「黄夫人の手」
岡本綺堂 「木曾の旅人」
江戸川乱歩 「鏡地獄」
大佛次郎 「銀簪」
川端康成 「慰霊歌」
夢野久作 「難船小僧」
田中貢太郎 「蟇の血」
佐藤春夫 「化物屋敷」
独特のぬめり
おすすめ度 ★★★★☆
明治以降の日本の短篇怪奇小説を、全3巻で構成したアンソロジー。
1巻には、明治35年から昭和10年までの17篇が収録されている。ハーン、泉鏡花、夏目漱石、森鴎外、芥川龍之介、室生犀星、岡本綺堂、江戸川乱歩、川端康成、佐藤春夫など著名な作家の、あまり有名でない作品が集められている。それでも怪奇小説としての完成度はなかなかのもので、かなり楽しく読むことが出来た。
欧米の怪奇小説とは異なる、日本独特のぬめりが感じられ、不気味である。江戸以前の日本文化と、欧米からもたらされた「近代」とが気持ち悪く混じり合い、得体の知れないものになったのだろう。
近年は欧米の怪奇小説紹介に行き詰まりが見えていただけに、嬉しい一冊であった。