映画の神が降臨した!おすすめ度
★★★★★
子供が子供だったころ
いつも不思議だった
どうして僕は僕で
君ではないの?
というペーター・ハントケ「わらべうた」の一節から始まるこの物語は、
とかく叙情的な美しさやメランコリックで幻想的な寓話という側面において
評価されているが、むしろそのような映像美に戯れる前に、この作品の本質
に触れなければなりません。
それは思想的叡知や歴史的経験に対する揺らぐ価値観は、なおも渾沌から逸脱
できずに、いまもなおシンボリックな場所としてのベルリン(ドイツ)を輻輳
するロジックの中に封印した状況になっている。
この物語は、人類の過去から現在、そして未来へ向かって、その過ちを克服し、
乗り越えることを可能にする唯一無二の手段である、天使の俯瞰の存在によって
みつけた、限界の方法論でのみ成立した奇跡の映画だといえます。
語るべきことは色々とあるが、歴史上の試練に対してベルリンで、先の見える
天使が、先の見えない人間に憧れるという、パラドクスめいた願望に秘められた
本質こそが、これからの人類に必要な最も重要な叡知と希望なのかもしれない。
『私』が『いる』ということおすすめ度
★★★★★
ある事がきっかけで、この映画を観ることになった。
娯楽性は全くないが、実に完成度が高く、洗練された映画。誰かが「20世紀最大の映画」と称しているが、それも過言ではないと思われる。
主人公ダミエルが人にある『こころ』を感じることで、モノクロームの映像が色彩を帯びていく。
あの瞬間がたまらなくいい!
そして、人間の世界に降り立つことができたダミエルが浮かれ過ぎて、無駄に趣味の悪いジャケットを着たり、無駄に走ったりするのが、可笑しくもあるし、人間臭くてたまらない!!
鑑賞中、様々な連想が浮かんだ。
ただ『私』が『いる』ということ。過去を省みるのではなく、『今、ここに』自分が『ある』こと。『今』を生きること。
つまるところ、『自分を感じること』なんだと思う。
そして、それを感じることができないと、空虚で、心もとなく、生き生きとしない。それは離人感とも表現され得るだろうし、モノクロームの世界にいるダミエルとサーカスのブランコ乗りは、まさにそうだったのだろう。「何かがたりない・・・」と。
連想を語れば、尽きることがない気がするので。
もうやめておこう。
とにかく、素晴しい作品であることには間違いない!!
普通であることの難しさと美しさおすすめ度
★★★★★
元天使、とは、理想の芸術家像・・だと思います。
人の心を揺さぶり、絶望を希望に変えることができる天使の資質。
人間になることで初めて実世界に触れた、みずみずしい感受性。
誰もが見過ごすような日常から、人類に普遍的な感動を拾い上げ、伝える映画を作りたい・・戦争やヒーローの映画ではなく・・という、監督の映画観が伝わってきました。
個人的には、ピーター(コロンボ刑事)が、役作りをしているシーンが好きです。
「普通に見える帽子」を、ああでもないこうでもないと、探しています。
「普通の人生」こそ一番難しく、一番魅力的なのでしょう。
詩的な言葉と美しい映像は、理解できない部分も多いですが、それでも耳に目に心地よく流れてきます。
映画そのものを楽しむ映画というよりも、言葉やイメージを通して、自分自身を見つめる映画ではないでしょうか。
見終わってから、忘れていた子供時代の一瞬がフラッシュバックして、なぜか涙がとまらなくなりました。
大人の映画です。
ジェームス・ヒルマン絶賛の映画おすすめ度
★★★★☆
元型心理学の創始者、ジェームス・ヒルマンが「20世紀最大の映画」と絶賛した作品。そういう目で見ると、そうなのかなと思われるモチーフがあるような、ないような。天上と地上の垂直軸。落下。魂を欠いた砂漠のような都市。女性との出会いを通じて、世界に色彩が復活する、など。
少なくとも、世界に色彩が復活するシーンは感動的で、抑うつ気分が解消する瞬間を思わせる。
どうです? ちょっと見たくなってきたでしょ。
この世界の美しさ
おすすめ度 ★★★★★
10年以上前にテレビでやっているのを何気なく見始めたら止まらず
あまりにも面白くて一気に見てしまった作品。
その時うけた衝撃は今でも如実に覚えている。
いろいろな人の心のなかのつぶやきに
そこここで耳を傾ける天使たち。
そんなさまざまな人のこころ読み取れるような、
さまざまな人の悲しみや喜びを聞き取れるような
天使の存在に憧れたときもあった。
しかし、人が生きるのはあくまでこの世界。
時が刻むゆえ、永遠に存続するものではない、
そしてうつろいやすいこの世界。
でもだからこそ色鮮やかな世界をわれわれは
見ることができるのではないか。
それが真実ではないかもしれないが
それでも色鮮やかな世界で喜び、悲しみ
天使が過ごすよりはるかに
強烈な時を生きることができるのではないか。
この作品はそんなメッセージのように思えてならない。
だからこそ主人公は天使から人となることを
選択した。
映画を見終わった後世界がより豊穣に
そして魅力的に感じられる、そんな作品は少ないが
少なくともこれはそんな作品のうちの一つであると思う。
概要
天使のダニエルは、地上の人間たちの心の声を聞くことができる。彼は地上に下りて、人間の側によりそい、その声を聞いているうちに、サーカスのブランコ乗りの女に恋をした。彼は、人間になって彼女を抱きしめたいと願うが…。
天使の目が見る世界はすべてモノクロームで撮られているが、これがじつに効果的。モノクロームの映像だからこそ、ささやくように語られる人間たちの、まるで散文詩のような心の声が生き生きと浮き上がってくる。ピーター・フォークがロケでベルリンを訪れたという設定で、自分自身を演じているのがユニーク。娯楽映画の派手さはないが、ゆったりとした流れでつづられる天使の世界を堪能できる、上品で心地よい作品だ。(斎藤 香)