古典主義の発展形としてのロマン主義おすすめ度
★★★★★
本書が日本ロマン主義小説の最高傑作であることは他のレビューでもすでに指摘されている通りであるが、
ゲーテやスタンダールを見れば分かるように「真の」ロマン主義というのは前時代の古典主義を
完全に消化することではじめて生まれるものであり、本書もその点で例外ではない。
実際、許されざる恋愛を忍ぶ男女という、下手な作家ならただ鬱陶しくなるだけの題材が
タイトルの通り天上のものにまで昇華されているのは(一人称語りならではの)多彩な語り口を
誇りながらも決して「おしゃべり」な印象は与えない中河の端正な文体の力によるものであり、
それは中河の古典に対する造詣の深さ(中河は歌人としても作品を残している)に由来するものに
他ならない。ヨーロッパ文学を自然主義の段階で導入したために日本文学の中で(江戸時代には
むしろ主流だった)古典主義やロマン主義の発展が阻害されたのは(丸谷才一や中村真一郎をはじめに)
よく指摘される通りだが、中河の文学はその中での「幸福な例外」として祝福したい。
変わらない名作おすすめ度
★★★★★
話は非現実でナンセンスだとさえ言えるかもしれません。しかし、美しい話なのです。
ロマンチシズムであり恋愛小説であるが、そうではない。天の夕顔は天の夕顔ただ一つです。
既に書いている人もいますが、「オリュンポスの果実」を思いだします。小さな迷いがありますがとにかく一途な青年であるところが似てますね。
恋を体験しない人はいないでしょうから、読んだ全ての人の心を何らかの形で震わせるだけの力がある小説です。
たとえ追い続けてきたものが幻だったとしてもおすすめ度
★★★★☆
かなわぬ恋を生涯追い続ける主人公。この世のものとは思えぬ心根の純粋さに心うたれる。たとえ彼が追い続けたものがただの幻だったとしても、幸せな生涯だったのではないだろうか。今の世の中、夢を持てない人間、夢に酔えない人間ばかりが、巷に溢れているのだから。
英独仏訳のある新感覚派の名作
おすすめ度 ★★★★★
たとえどんなに孤独に陥っても、冷徹無残の中にいるよりは、「いっそ天に近いところ」に行って、自分のかなしい生命を終わった方がいいと思う主人公。「天に近い清浄の雪の中」にしか自分の住むところはないと思いつめる「わたくし」…およそ地上的なものから乖離して神聖なるものへ昇華しようとする純粋さこそこの小説を永遠のものにしている。
「もう五年したらおいで下さい」と言って別れたあき子が、末期の思いで書いたという手紙を受け取る。「かつてあの人がつんだ夕顔を夜空へ花火としてうち上げたい。天にいる人がそれをつみとるのだと考え、いまはそれを喜びとするのです」これが瀧口の生涯をかけた夢のプロローグだった。発表当時、文壇には無視されたが、荷風は激賞し、海外ではカミュが認め、英独仏訳があり、世界的に親しまれている、永遠に美しい作品(雅)