第4巻がカバーするのは、三国志の時代から、南北朝時代そして隋による南北統一までである。三国志の時代に特に力を入れており、本書の半分以上を割いている。三国志に関しては、本書だけで十分にその骨格を掴むことができるのではないか。この時代に関しては数多の本があるので、この時代を極めたい人はそれを参考にするとよいだろう。私自身が三国志の時代の全体を通読したのは本書だけであり、後は視覚的に中国の傑作TVドラマを楽しんだだけ(今は宮城谷昌光氏版三国志の完成を待ち望んでいます)。それぐらい、本書での三国志の部分の記述は充実している。その三国の一つ魏は台頭する司馬一族の晋に取って替わられ、晋は内紛もあって北方異民族に抗することができず、ここに南北朝時代が始まる。晋及びその後継者たる南朝政権は貴族社会であり、政治面が落ち着かない中で、政治からわざと身を引いて奇抜さを競う風が広まり、その中から今に至る中華文化(文芸・書等)の基礎が築かれたことは見逃せない。(もっとも五石散という麻薬の流行という悪弊も招いたが。)宗教の点でも儒教の権威の低下とともに仏教や道教が流行し、王室でも信仰されるに至った。北朝では道・仏の対立が起こり、廃仏令が出されたのも北朝が最初である。北朝は元来異民族の王朝なのに出身地を捨て、漢化政策を積極的に邁進する点が、第6巻に登場する遼などの征服王朝との違いになる。さすがに本書はこういった南北朝時代の重要性をしっかりと記述している。中国史に馴染みの薄い人にとっては新鮮な発見となるだろう。当時の文化人の代表として陶淵明のためにわざわざ一章を費やしているのに注目してほしい。彼もまた、政治の表舞台での活躍と隠逸・詩作の間で揺れた時代の具現者なのである。
六朝=ダメ夫たちの時代おすすめ度
★★★★★
三国志の時代を描いた前半よりも、五胡十六国、南北朝の時代を描いた後半の方が、私には遥かに面白かった。
この時代、漢民族は、北方異民族(五胡)に黄河流域を追われて江南地方に逃げ込み、約200年の間に、6つの小型王朝を興亡させた(よって、「六朝時代」とも呼ばれる)。マッチョな北方への反発からか、南朝の国家は貴族趣味に走り、上流階級の男達は、驚くと気絶するくらい ひ弱な方がクールとされたと言う。馬車に乗るにも、お供の人達に抱っこしてもらったというダメダメぶりである。
情けないと言えば、限りなく情けないが、儚げなものを美しいと見る感覚は、なんとなく日本人的な気もする。また、こんな風潮の中にあって、芸術・文化は成熟し、陶淵明、王義之のような、後世に決定的な影響を与える天才も出現している。
一方、北朝の国家の気風も次第に洗練されていき、「他民族との融和」という理想主義を掲げ、天下統一目前まで行きながら、尊重していた筈の他民族出身の将軍に裏切られて自滅し、失意の最期を迎える、苻堅のような人物も登場する。この時代の君主は、名君・暗君ともに、どこか、現代人的な脆さを感じさせる人が多い。
また、数世紀後の地方小王朝である南唐(このシリーズの第6巻に登場)も、軍事的にはボロボロながら、文化的・経済的には繁栄し、芸術面で不滅の影響をのこしたと言う。「国が栄える」とはどういうことか考えさせられる。
シリーズ中で一番盛り上がるシーンか?おすすめ度
★★★★★
第4巻は魏晋南北朝。つまり三国志の時代です。
陳舜臣の十八番といえるところでしょう。
三国だけでなく、五胡十六国時代の戦乱も三国志を読んでいるかのような
血わき肉踊る物語になっています。
分裂時代というのは複雑で理解しにくいものなのですが
その時代の中心的人物を取り上げ、物語を進めていく手法は
感情移入しやすく、エピソードの取捨選択も
すっきりしていると思います。