私がテレビや新聞を見るたび感じてた「それでは、どこにもいけないではないか?」という感じ。それがこの本での主題になってると思う。ページ半分すぎでは、「もう。わかったよっ!」という少し嫌悪感のようなものが浮んでくる。被害者の気持ちは被害者にしかわからないが、それでも「前を向く」ということ=「原因を考えること」をしない限りは、私たちは同じような所をグルグルと回っているだけなのだ。オウム=悪という図式は、かなり短絡的である。社会の欠陥に隠された「歪み」を検討してみたい。アンダーグランド2では、黒白にしか分けられない最もピュアな人間たちの物語で「原因」が分かってくる・・・気がする・・・。
家庭の幸福がカルトの敵おすすめ度
★★★★★
被害者達へのインタヴュー集。この時点では、まだ事件が完全に決着したわけではなかったせいか、容疑者やその挙措動作についての目撃情報は載ってない。
印象的なのは事件当初の人々の反応がどこか鈍い点だ。
人は日常的な場面で、あまりに非日常的な事態に遭遇すると、パニックを起こすよりも、むしろ神経が鈍磨してしまうのだろうか。ガスの効果がジワジワと効いてくるものというのもパニックにならなかった理由の一つかもしれない。また通勤の満員電車の中の人間関係は極めて特異なものだ。密着しすぎているので、お互いが迷惑を掛け合っているような気分になり、どこか刺々しい沈黙が支配している。268ページにあるように、人々の間にコミュニケーションも騒ぎもなかったのは、こんな理由によるのではないか。ただハッキリと異常事態を認識した後は、乗客同士おおいに助け合っている。日本の公的危機管理システムは、こういう例外的事態への対応が今も昔も酷く鈍い。頼りにならない。これからもそうだろう。坂本事件の際、マスコミが警察に気兼ねして、お粗末な報道になってしまったのは残念だ。
131ページの精神科医の「ケガレ」論も興味深い。ケガレ=悪ではないのだ。もっと日本人の深部にある解消不能の複合感情だ。
カルトの対極にあるものは「家族」だろう。明石さんの項を読んでそう思った。原始仏教、キリスト教から20世紀のマルクス主義まで、カルトは個人や家族のエゴイズムを完全否定する。しかしカルトから人を救うものは「家族愛」以外ない。だから家族ごとカルトに囚われたら最早救いはない。今後、家族が解体されて行くにつれて不気味なカルトの百鬼夜行状態になるかもしれない。
情景が伝わってくるおすすめ度
★★★★★
本屋で立ち読みから読み始めたんですが、物凄い鳥肌が立ちました。映画や小説の中だけかと思っていたサリンという毒ガスを使った無差別テロ。日常の中に、本当に日常の中に突然現れた最悪の状況。
自分もこの後、丸の内線にのって学校に通ったため、あと何年か生まれるのが早かったらもしかしたら私の日常にも起こりえた事件。
やはりどこか他人事の用に感じてしまっていた事件。TVで観るとニュースの一時で終わってしまう事件。
被害者も善良な人。加害者も昔は私たちと変わらない普通の人だったはず。
こんなに鳥肌が立つ本は今まで読んだことありません。
直接は関係ないけど
おすすめ度 ★★★★★
サリン事件とかオウムとかということに限らず、日本という社会・システム・組織のダメダメな部分に暗澹たる思
いを抱いてしまった本。この本とほぼ同じタイミングで日本陸軍、とりわけノモンハンに関する本を読んでもいた
のでことさらにそう思った。
インタビューに出てくる信州大学医学部長のセリフが強く印象に残る。
「こういう大きな災害が起こったときに組織が効率よく速やかに対応するというシステムが日本には存在しない
のです」「何にか大きなことが起こったとき、それぞれの現場は非常に敏速に対応するけれど、全体としてはダ
メ」
過失を外に向かって明確にしたがらない日本の組織風土、閉塞的、責任回避型の社会体質・・・